アウディ e-tron GT 新型試乗!「電子レンジ化しないEV」として貴重な一台…南陽一浩 | Spyder7(スパイダーセブン)

アウディ e-tron GT 新型試乗!「電子レンジ化しないEV」として貴重な一台…南陽一浩

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実車を目の前にしてまず、オンライン・プレビューの際にアウディのチーフデザイナーであるマルク・リヒテが、「これまで自分が関わってきたアウディの中で、もっとも美しい一台をデザインすることができた」、そう述べていたことを思い出した。もちろん自画自賛だが、それだけの自信作なのだ。

2018年、ちょうど3年前のロサンゼルス・オートショーで『e-tron GTコンセプト』を見た時は、「これだけロー&ワイドなコンセプトカーならカッコよく見えて当たり前」という感想しか沸いてこなかった。

アウディ e-tron GTコンセプト(LAモーターショー2018)
市販車になってコンセプト段階のオーラが失われるのは、毎度のことなのでスルーの準備すらしていた。だから、あの状態からタイヤ&ホイールとディフューザーの一部以外、まさか同じまま市販されるとは想像だにしなかった。

ついでに日本での試乗会で、充電管理の面からEVが苦手であるはずの高速道路での長距離行、品川~日本平間の往復ドライブが提案されるとも、思ってもみなかった。

◆「電子レンジ化」を拒否した走り

アウディ e-tron GT クワトロ
純EVを試乗レポートするのに困るのは、どのモデルもおしなべて走行中の振動が少なく静かで、車格や内装の仕立ての違いはあれど、バッテリーが嵩む分、乗り心地はどっしり系という辺りだ。

EVが珍しかった初めのうちは、ほぼロードノイズばかりというパワートレインの無音ぶりと滑らか加速に感動するのだが、飽きてくると低速域でのアシの固さを誤魔化しきれていないこと、あるいは高速道路で移動中ならバッテリー残量と次の充電タイミング、急速充電ステーションの空きといった心配事しか、頭に浮かんでこなくなる。要はクルマとして「印象」が残りづらい車種が、少なくはない。

だが『e-tron GTクワトロ』の走りは、EVの陥りがちな「電子レンジ化」を拒否したところが始点で、そこが素晴らしく練れていた。リアの駆動配分がフロントよりやや高めのAWDで、しなやかな足で地面を捉え続けるスタビリティの高さ、リニアな加速感覚は、従来のICEのアウディでもおなじみのものだが、地続きのままEVになった。それだけなら怪物的エフィシェンシーの怪力GTというだけだが、e-tron GTクワトロは血の通った一台に仕立て上げられている。

◆エモーショナルな外観とコンサバな内装


5mをわずかに切る全長4990mmに、全高1415mmと全幅1965mmの外寸は、ロー&ワイドなだけではない。ロングノーズ気味のボンネットからルーフライン、ファストバック風の広いリアウインドウからテールエンドまで、輪郭は伸びやかで、シングルフレームグリルはもちろん既存の『A7スポーツバック』の系譜をも認められる。

e-tron GTクワトロは一見して、文句なく美しい一台のアウディに仕上がっている。VWグループのJ1プラットフォームを同じくするポルシェ『タイカン』とはプロポーションこそ似ているが、スポーツカーではなくアウディならではのグランドツーリングEVとして、独自の路線を外観からして主張する。正確にはファストバックでなく荷室はトランクリッドのみ開閉し、4ドアのサルーンというより、4ドア・クーペだ。


CD値0.24の空力的かつエモーショナルな外観にひきかえ、e-tron GTクワトロの内装は落ち着きはらっているというか、コンサバですらある。見た目にはA7と『A8』の中間ぐらいで精度の高さはそのままのダッシュボードに、馴染みあるモノポスト・デザインのインターフェイスで、間違いなくインゴルシュタットの一角に来た、そんな雰囲気だ。

だがオプション装備のレザーフリーパッケージによる、アーティフィシャルレザーやダイナミカ、カスケードクロスといった再生素材やウォールナット調パネルが醸し出す、意識高め風のアナログな質感は、確かに新鮮に感じる。

◆V10にも似た疑似エキゾーストノートを奏でる


街を走っていると、昨今ここまで低い視点で街乗りしていなかったことに気づく。強化バージョンたる「RS e-tron GT」ならさらに地面を這いつくばるほどに、2cm低い全高1395mm。リアステアを備えた4輪操舵なので実際の最小回転半径は5.5mと、2900mmのロングホイールベースには望外の小回り性能なのだが、そのワイド・プロポーションゆえ、あえて細い道に入る気が失せる。

確かに街では慣れと注意の要るサイズ感だが、e-tron GTクワトロの走りの本領は高速道路に乗ってからだ。制限速度まで瞬殺で到達しつつ、盤石のスタビリティが持続する感触は、EVになってもアウトバーン・キングとしかいいようがなく、それでも軽さく優雅な身のこなしを感じさせる、アウディ・タッチは健在だ。

ちなみにe-tron GTクワトロおよびRS e-tron GTでは、センターコンソール上のスタートボタンを押した時から、ヴロロロというより“VRRRR”と記したくなるような、軽やかで滑らかな合成エキゾーストノートが背中から響く。これはアメリカやEUのルールで低速域で歩行者に車両接近を知らせる必要があり、外部スピーカーで音を出すことが義務づけられているため。

アウディ e-tron GT クワトロ
つまりメーカーが合成音を用意しなければならないという必要にかられた事情もあるが、車両設定で「ダイナミック」にすれば室内にも、音量はかなり絞った控え目さで、加速のトーンに応じてそれこそV10にも似た軽やかな鼓動が耳に届く。これまでも疑似エキゾーストノートを装備していたEVはあったが、それらは演出に留まり、走るのに必要な下味やバックグラウンドとしての効果音ではなかった。

EVを走らせて無味乾燥に感じやすいのは、速くても力強くてもエキゾーストノートやシフト変速によるトーンの変化やビート感が得られないことが大きい。いくらブレーキングやステアリング操舵を挟んでも、休符も拍子もないまま踊らされているようなものだ。だからこそ、着くだけが目的ではなく、移動中が着いた先での用事と同じぐらい大事なタイプには、EVは充電環境や事情を抜きにしても、未完成で物足りないものなのだ。

◆グランドツーリング 4ドア・クーペである


純EVのグランドツーリスモとして、それでは意味がないからこそ、アウディe-tron GTクワトロはその存在意義を丁寧に突き詰めている。ドイツ風のアウフヘーベンというか、弁証法的な力業そのものですらある。そもそも目的地に着くことだけが移動なら、ACCを手動設定したりオンにするのも非合理的なので、電子レンジの温めボタンよろしく目的地を告げたら着いてくれる方が優れている。

それこそレベル4以上の目指すところだろうし、用事によってはオンラインで良かったんじゃない!?という世の中でもある。e-tron GTクワトロの目指したのは結果オーライ式の効率ではなく、効率はグランドツーリングを支える手段に過ぎない。


また先に4ドア・クーペであると述べた通り、リアシートに座ると足元は窮屈でないがシートバックが立ち気味。天地の低いリアウィンドウと前列スポーツシート背面の樹脂に囲まれ、圧迫感すら覚える。これは後席の居住性がイマイチというより、多少無理をすれば乗せられはするけど、フロントシートの2名にプライオリティのあるGTクーペとして、そこに割って入ろうものならお邪魔虫…というイケズ感を巧みに漂わせている。

4ドア・クーペとして正しいし、そこで後席の快適性にこだわる方が無粋な無理筋であり、そっちが要るならサルーンをどうぞ、という話だ。

◆実走行で475km前後を走る

アウディ e-tron GT クワトロ
ドライブモードを「エフィシェンシー」とすれば、e-tron GTクワトロはFF優先の制御ロジックで走ることもできる。RSの方がボディコントロールの質は高い一方で街乗りでやや上下動が強く、e-tron GTクワトロは総じて穏やかで十分にスポーティだが、首都高速の継ぎ目で身体がやや上に跳ねる場面もあった。

今回は1台づつ片道180km強を走らせ、それぞれゴール地点でのバッテリー消費量は4割弱といったところで、WLTPモードで534kmであることを思えば実走行レンジは475km前後、妥当だろう。

1399万円と1799万円の価格差は、内装テーマと、エアサスペンションがオプションか標準装備か、荷室容量の違いの他には、純粋に2割増しの出力に伴うキャラの違いといえる。悩ましいところだ。



■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★★

南陽一浩|モータージャーナリスト
1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

【アウディ e-tron GT 新型試乗】「電子レンジ化しないEV」として貴重な一台…南陽一浩

《南陽一浩@レスポンス》

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